あらあら大変ね

いろいろです

誰にだって心はある

「クイーン」を観ました。

舞台「オーディエンス」は首相の謁見がテーマと言いましたがブレア首相だけは出てこないんですね。脚本家は一緒です。ブレア首相パートについては「クイーン」を見てくださいと笑。どっちがとは言えないけど1つの作品をパート分けしてメディアミックスしてる感じ。Fateみたいね?

これも会話劇なので凄い展開とかはありません。↓スペシャルエディションって何がついてるんだろうね?

 

クィーン〈スペシャルエディション〉 [DVD]

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あらすじ:みんなは泣いてるけど私は泣きません

ひとこと:でも心がちゃんとあるのよ

 

小学○年生の夏休み最後の日、日曜日の夕方、笑点のあとのニュースでダイアナ妃死亡のニュースを知った瞬間を今でも覚えています。

ビックリして「ダイアナ妃ってあのダイアナ妃!?」と親に聞きました。その日は実は午前中から事故がニュースになっていたようなのですが、テレビを見てなかったんですね。夏休み最後の日だし。

特に何か思い入れがあったわけではないのですが、「お姫様が王子様とお別れして事故で死ぬ」ということが、めでたしめでたしのおとぎ話しか知らない子供には理解出来なかったワケですね。こんなに突然で暴力的で、なのによくできた悲劇はシェイクスピア劇みたいですね。というか現代にシェイクスピアがいたら書くでしょうこれ。

今でこそ色々言われているけれど、その何年か前にあった日本の皇太子妃ご成婚の時は、子供ながらにお姫様になる人が本当にいるんだなって思ったわけです。

しかし、私がそのニュースを日本の家庭で見た衝撃は何千倍何億倍となって、海の向こうの島国を襲撃していました。

 

エリザベス女王が静養先のバルモラル城からバッキンガム宮殿に戻るまでの一週間を描いています。ダイアナ妃が亡くなってから国葬までの一週間。それまでのやり取りや国民感情は調べれば出てくるし、本当にそのままなのであらすじは書かなくても??

話は殆ど、若くて新進気鋭のブレア首相と、50年女王様をやってきたエリザベス女王の対話です。あとは反王室派のブレア夫人とか、失言が多いことで有名なエディンバラ公とか、輪をかけて問題の多いチャールズ皇太子とか、当時まだ存命中のエリザベス王太后(「英国王のスピーチ」の奥さんですね!)もいるけど基本は2人の話です。

人によってはつまんねえっていってる理由もわからんでもない。本当それしかないので。「オーディエンス」と同じ事実に基づく妄想ドキュメンタリーを楽しめれば面白いと思います。

たまに「ブレアと女王以外を愚かに描きすぎ」という感想を読みますが、その他のキャラクターは敢えて象徴的に描いてると思うのです。ブレア夫人は若い価値観の象徴だし、エリザベス王太后エディンバラ公はそれぞれ権威の違う側面を象徴しています。チャールズ皇太子は民衆やマスコミの「自己保身」ですよね。

 

「オーディエンス」を観た時に「立場に縛られながら人間としてのやり取りをしようとしている」という感想を書いたんですが、今回も似たようなことを、というかもっと切実なことが描かれてます。簡単に言ってしまえば「女王も首相も一人の人間である」ってだけなんでしょうけど、言い換えて「一人の人間には心がある」ことを描いている。

で、この当たり前のことが何と簡単に無視されていることかという話なんですね。

 

ダイアナ妃はとあるインタビューで答えています。

自分の振る舞いを王室にふさわしくないという文脈で「頭ではなくハートで動いてしまうのです」と。それを誰もが気の毒がっているのですが、「ハートで動いてしまう」のは誰でもそうなのでは?それを抑えるために頭が、理性があるのです。

「ハートで動く」というのは聞こえはいいけれど、100%肯定されることでしょうか。時にとても自分勝手で面倒な自体を引き起こしませんか?結果傷つかなくてもいいようなことで傷つく羽目になったりしたことはないでしょうか。

頭/ハートの割合は人それぞれで、ダイアナ妃はその割合が2:8で女王は8:2くらいだっただけなのですが、何故か誰もが「ハートで動くこと」を是としてしまったことに事の問題があるんですね。その結果、女王にも心があると忘れられてしまった。

すごく矮小な解釈で申し訳ないけれど、ダイアナ妃という人は超弩級サークルクラッシャーです。サークル一同、彼女を大事に扱えと部長に迫ってるような状態が国家レベルで起きています。そういう意味だと厄介ではあるけどやっぱりすごい人だったなって思います。公務や慈善活動においてはこれがうまい方向に働いていたんだし。

チャーミングってすごい。

 

さらにそれを冗長させるのがマスコミです。

そもそもがダイアナ妃の事故の原因はパパラッチによる過剰報道です。じゃあマスコミが全部悪いんか???いえ、じゃあそのパパラッチの撮った写真が載った雑誌を買うのは一体どこのどなたたちなのでしょうかね。

マスコミの一番悪いところはそういった扇動よりも、扇動をすることで自分たちに権力があると思い込んでしまうところでは?

最後に女王の演説の原稿にブレアの報道官が「冷たすぎて心がない」と言い、挙句の果に「このババア次は(俺たちの力で)どうにかしてやんないとなw」みたいなことを言います(うろ覚え)。それを聞いてブレアは初めて身内にブチ切れます。「彼女は(お前も含め)50年国民のために生きてきたんだ。今王室に砂をかけて出て行った女性を必死に弔おうとしている心が分からないのか」と。

一連の事件で民衆は勿論女王ですらも操れると思ったマスコミは星の数程いたと思います。女王は持論を曲げて世論を取り、バッキンガム宮殿に女王に戻ってきたのですから。でもその時、マスコミはあっさりと女王を擁護し始めるのでした。

勿論マスコミが祭り上げたブレア首相も、後にボロクソに叩かれるのです……。

 

印象的なシーンは2箇所あって、一つは気分転換にレンジローバーを運転して出かけた女王が(ていうか女王様運転できるのか……しかもローバーを)川の中で立ち往生してしまい、一人になって泣いていたところ、一頭の雄々しい鹿に出会って「美しい」とつぶやく場面です。

これ、妄想映画なので妄想もいいところの場面なのですが、この鹿、何を意味してるのかホントに分からなかったんですね。その後この鹿は鹿狩りに遭って獲られちゃうんですけど、「追われて死んだダイアナ妃」の象徴なのかなあ?と。

鹿の死を悲しむのと同じにダイアナ妃の死を受け取ればよい……と女王の中で納得したシーンなのかな、その後女王はバッキンガムへ戻ります。

 

次がバッキンガム宮殿の前に道路を埋め尽くす程捧げられた花束と、女王の帰りを待っていた民衆の間を女王が歩くシーンです。女王が歩いて宮殿に入るのは大戦集結以来のことだそうです。花束にはカードが添えられています。「ダイアナ、貴方は(王室の)彼らより尊い」「(王室の)彼らが貴方を殺した」と。その言葉一つ一つに女王は傷つくんですが、花束側から民衆に振り向くとき、必ず笑顔です。心無い言葉に傷つくときも絶対に民衆に微笑みます。これが女王です。立場をうまく表現してるなーって思うんですね。「オーディエンス」でも貼った画像だけど女王はいつも笑顔なんですよ。こんな大変な職業ないでしょう。

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どうしてこんな人に「心がない」と言えるのでしょうか。

この人でなくてもいい、電車の中の他の乗客でもいい、街ゆく人々でもいい。

みんな心を持っています。どうしてそんな当たり前のことを私たちは忘れてしまうんでしょう?

 

「衆愚」というものが凝縮されている映画です。おすすめ。

 

ヘレン・ミレンほんとに綺麗です。「コックと泥棒、その妻と愛人」も借りてきました。同じ人とは思えない!

あとエディンバラ公をベイブのおじさんことジェームズ・クロムウェルが演じているんですが、女王の身長差に萌えます。口を開けば「孫たちが可哀想だから明日も鹿狩りに行こう」とか言うし大幅にズレた人で実際問題「生まれ変わったら未知のウイルスになって人口問題を解決させたいなあ」とか言ってる方なんですが、女王はいつも無私の人だから、旦那がこれくらい正直だとスカッとするのやもしれません。

あとチャールズ皇太子がそっくりです。ブレアにも「気持ち悪い」とか言われます。でもこの人もハートで動く人なので、ずっと好きだった恋人とやっと添い遂げられそうな今、この人の「心」も考えてあげてもいいんじゃないかと思いました。

 

イギリス王室名物コーギーちゃんたちが沢山出てきます。大変癒しです。ベルベル走り回っています。コメディリリーフコーギー